「性交痛がひどく病気ではないのか?」
「子宮内膜症って性交痛と関係あるの?」
性交痛で悩む方に上記の疑問はないでしょうか。子宮内膜症は、性交痛の原因の一つです。
本記事では、子宮内膜症の症状や原因などを解説しています。子宮内膜症以外の性交痛の原因も紹介しており、比較することで性交痛と子宮内膜症との関係性について理解できるでしょう。
目次
子宮内膜症とはどのような病気?
子宮内膜症とはどのような病気なのか、主な原因や発生しやすい場所などを解説します。
子宮内膜症とは
子宮内膜とは、子宮の内側を覆う組織のことですが、他の場所に子宮内膜ができてしまう病気が子宮内膜症です。子宮以外の場所で増殖や剥離を繰り返し、痛みを引き起こします。
子宮内膜症は、初潮を迎えてから閉経するまでの女性の1割が発症します。女性ホルモンの影響を受けるため、20〜30代に多く発症し、ピークは30代半ばです。
女性ホルモンの分泌が減少し閉経を迎える頃には、症状は軽減します。
主な原因
子宮内膜症を発症する主な原因は、現在明確ではありませんが、経血の逆流ではないかといわれています。
経血には、子宮内膜などの組織が含まれており、排出されない経血が卵管、腹腔内などに流れ込み付着することが原因と考えられています。
発症の可能性が高い方は以下のとおりです。
・初経が早い方
・妊娠回数が少ない方
・月経周期が短いなど
このように、生理の回数が多い方ほど発症・進行しやすい病気です。
経血が卵巣に溜まった状態をチョコレート嚢胞(のうほう)と呼びます。子宮内膜症の女性のうち、17~44%が卵巣チョコレート嚢胞を合併しており、そのうち、0.7%の方が卵巣がんを発症するといわれています。
子宮内膜症ができやすいところ
子宮内膜症ができやすいところは以下のとおりです。
できやすい場所
・卵巣
・卵管
・ダグラス窩(ダグラスカ)
・仙骨子宮靭帯
・膀胱子宮窩
まれにできる場所
・肺
・腸
・股関節
・へそ
・皮下
・筋肉
・骨
ダグラス窩は、子宮と直腸との間にある空洞部分です。仙骨子宮靭帯は、子宮と仙骨(背骨の一番下の部分)をつなげ、支える組織を指します。膀胱子宮窩は、子宮と膀胱の間にある空洞部分のことです。
性交痛と子宮内膜症
性交痛との関連について、子宮内膜症による性交痛の特徴を解説します。
子宮内膜症による性交痛の特徴
子宮内膜症による性交痛は、膣の奥の方が痛むことが特徴です。好発部位であるダグラス窩がちょうど膣の奥に位置するため、男性器で突いたときにあたるためです。
また、体位の違いで痛みがあるときとないときがあります。そのため、性交痛の有無だけで、子宮内膜症であるかは判断できません。
性交のしすぎが子宮内膜症の原因ではない
性行のしすぎや生理中の性交が、子宮内膜症の原因ではありません。
前述の通り、子宮内膜症になる原因は経血の逆流であると考えられているため、月経回数の多い方に起こりやすいと考えられています。
このように、原因は明確ではないものの、性交のしすぎとの関連性は現在認められていません。
子宮内膜症でも性交は可能だが難しい
基本的に、子宮内膜症を患っていても性交してはいけない、ということはありません。
ただし、性交痛があるため、普通に性交を楽しむのは難しいでしょう。さらに、痛みや不安などの精神的作用により、体の硬直や潤い不足を引き起こすことで、性交痛が悪化してしまう可能性も考えられます。
挿入を浅くしたり、体位を工夫したりすることで、性交できるかもしれません。しかし、それでも次第に痛みがつらくなり結局、性交を避けるようになってしまうことも多いようです。
性交痛以外の子宮内膜症の症状
性交痛以外にも、生理痛や出血量の増加など子宮内膜症の症状はさまざまです。痛みが生理後まで続くこともあります。
生理痛がひどい
子宮内膜症では、ひどい生理痛に悩む方が多く、さらに年々悪くなる傾向があります。子宮内膜症は、生理のたびに進行していくことが多いためです。
ひどい生理痛は、子宮内膜症の特徴でもあり患者の9割と、ほとんどの方が感じています。
ひどい生理痛の原因は、通常できない場所にも子宮内膜ができるため、体全体でプロスタグランジンが多く分泌されることによります。プロスタグランジンとは、子宮の収縮を促す作用があり、陣痛の原因でもある強い痛みを起こす物質です。
プロスタグランジンの分泌量の増加にともない、子宮が強く収縮し痛みます。鎮痛剤を飲んでも効果がない場合、生理痛が来るたびに痛みが悪化する場合は注意しましょう。
生理の出血が多い
子宮内膜症では、生理の時の出血量が多くなる場合があります。患者の約半数が、生理の時の出血量が多くなると訴えています。
生理の出血量には個人差があり、判断が難しいかもしれませんが、これまでより出血量が多くなってきたり生理期間が長くなったりしたら要注意です。
また、出血量が多いことで経血をサラサラにする作用がある酵素が不足し、かたまりとなった経血が混じることもあります。
生理以外で下腹部・腰の痛みがある
生理時以外の下腹部の痛みは、約7割の方が訴える症状です。生理前から痛み始め、生理が終わっても痛みが続くなど、生理以外の時にもずっと痛みに悩まされる方もいます。
下腹部痛のほかに、6割近くの方が腰痛を訴えています。通常の腰痛とは原因が違うため、安静にしていても治らない腰痛は要注意です。
排便時に痛みがある
関係がないように思えるかもしれませんが、排便時の痛みも子宮内膜症の症状です。排便時に、肛門の奥あたりに痛みがある症状で、4割近くの患者が訴えています。直腸付近に癒着や炎症があることが原因です。
また、生理期間中に下痢や軟便になるケースもあります。普段便秘がちなのに、生理の時だけお通じが良い、または下痢になる場合などは、要注意です。
不妊
不妊は、子宮内膜症の症状の一つです。不妊の方の30〜50%が子宮内膜症を患っているといわれています。卵管や卵巣などに発生すると臓器を癒着させ、排卵や卵子の取り込みがうまくできなくなることが原因です。
一回の排卵で妊娠する確率は、不妊症でない女性が15〜20%なのに対し子宮内膜症の女性は2〜10程度まで下がるといわれています。
子宮内膜症の治療方法
子宮内膜症の治療方法は、薬物による治療と手術による治療があります。それぞれ症状により使い分けられます。
薬物による治療
薬物による治療は、鎮痛剤もしくは漢方薬による対症療法、症状を抑制するホルモン療法などです。症状によりまず、痛みを軽減させる効果のある漢方や鎮痛剤を投与し、改善しない場合はホルモン療法を行います。
ホルモン療法は、プロゲスチン製剤により、排卵を抑え子宮内膜が厚くなることを抑制する方法です。ほかに、GnRHアゴニスト剤で一時的に閉経状態にすることで、病巣を萎縮させる方法があります。
いずれの方法も、エストロゲンの分泌を抑えることで、子宮内膜症の症状を抑制する治療です。
手術による治療
手術による治療は、病巣部分を切除する方法です。開腹手術と腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)の2種類となります。
近年は、ほとんどが腹腔鏡手術が行われています。内視鏡による手術であるため、開腹手術に比べ傷跡が小さく、ダウンタイムが短いことがメリットです。
また、内視鏡で患部を拡大して診察できるため、より正確に病巣の診察や治療を行えます。妊娠を希望する場合は、病巣のみ切除するなど、患者の希望や症状により、どの部分まで切除するかを検討します。
性交痛の原因は子宮内膜症だけではない
性交痛の原因は、子宮内膜症だけではありません。精神的な原因や潤い不足などさまざまです。原因により、セルフケアで改善できる場合があります。子宮内膜症以外の性交痛の原因について解説します。
精神的な原因
精神的な原因で性交痛を引き起こすことがあります。精神的な問題は、膣の潤い不足や硬直を引き起こすためです。
精神的な原因が性交痛を引き起こす例は以下のとおりです。
・性交に対する緊張・不安
・性交やパートナーに対する嫌悪感
・過去に性交がうまくいかなかった経験
過去のトラウマがさらなる不安を引き起こし、悪循環に陥るおそれもあります。精神的な原因の場合は、パートナーの理解・協力を得ることで改善できる場合があります。
恥ずかしい気持ちもあるかと思いますが、まずはパートナーに相談してみましょう。
対策の例は以下のとおりです。
・性交前に会話やスキンシップを十分にとる
・前戯をしっかり行ってもらう
・体位を工夫する
・部屋の照明を暗くする・落ち着いた音楽を流す
いずれも、リラックスした状態で性交することが大切です。
潤い不足によるもの
膣の潤い不足により、性交痛となる場合が多いです。潤い不足の原因は、前戯不足や精神的な原因の他に、更年期の女性ホルモン減少による膣の乾燥などがあげられます。
精神的な原因の場合は、パートナーへ相談することが大切です。潤いを直接的に得たい場合は、潤滑ゼリーを使用するのも良いでしょう。
潤滑ゼリーは、性交前にデリケートゾーンに塗布するだけで手軽に潤いを補助できます。
全身用のローションは、膣内を乾燥させてしまうため、膣専用の潤滑ゼリーを使用しましょう。安全性の高いリューブゼリーがおすすめです。
潤い不足による性交痛を根本的に解消したい場合には、レーザー治療が効果を発揮します。
レーザー治療は、切開しない治療であるため、痛みや出血がなくダウンタイムが短いのが特徴です。潤い不足の解消以外に、ゆるみや黒ずみの改善など、デリケートゾーンの悩みの多くを治療できます。
体質によるもの
体質が原因で性交痛となることもあります。体質が性交痛の原因となる例は以下のとおりです。
・生まれつき膣が狭い
・処女膜強靭症
・ラテックスアレルギー
・男性器が合わない
処女膜強靭症は、処女膜が厚く固いため性交時に痛みを伴います。手術により治療可能です。
ラテックスアレルギーは、天然ゴムに対するアレルギーです。天然ゴムは、コンドームの素材に使われることが多いため、アレルギーがある場合は、コンドームを選ぶ際に注意しましょう。
男性器が合わないなどの場合は、体位を変えてみるなど、パートナーの協力で軽減できることもあります。
疾患によるもの
炎症や性感染症など、疾患にかかっていることが原因で性交痛を引き起こすことがあります。
疾患が性交痛の原因となる例は以下のとおりです。
・接触性皮膚炎
・カンジダ症
・性感染症
・婦人科系の疾患
下着の摩擦や蒸れなどで、接触性皮膚炎を起こすことがあるため、締め付けのない下着を着用しましょう。性感染症の多くは性行為による感染が多いのですが、タオルの共用などで感染するケースもあります。
子宮筋腫などの、婦人科系疾患を引き起こしている場合もあるため、疑われる場合は早めに診察を受けましょう。
【まとめ】性交痛の原因はさまざま
子宮内膜症は、本来できるべきでない場所に子宮内膜ができる病気です。性交時に、膣の奥に痛みを感じる場合は、子宮内膜症かもしれません。
ほかに、ひどい生理痛や生理時の出血量が増えるなど、生理に関連する症状が多い病気です。不妊の原因にもなるため、妊娠を希望している方は早めの治療が必要です。
性交痛の原因はさまざまであるため、心配であれば一度クリニックで診察を受けることをおすすめします。
満行 みどり
略歴
国立佐賀医科大学(現佐賀大学)医学部卒業。その後九州大学医学部付属病院第二外科、佐賀県立病院などで外科、救命救急、麻酔科全般を習得。
聖心美容外科東京院、大阪院、福岡院にて勤務後、横浜院院長、全国診療医長を歴任。
婦人科形成、脂肪吸引を始めとする多くの症例に携わる。
レーザーによる女性器の若返り治療、膣の引き締め、外陰部形成のライセンスをアメリカのビバリーヒルズにて日本人の女医として初めて習得。東京の広尾に、日本人初となる女医による女性器形成専門クリニック、みどり美容クリニック・広尾を開院する。また「女性器形成」「女性性機能障害」のスペシャリストとして、様々な論文執筆、講演会、ドクターへの指導を行う。
資格
所属学会